フェローシップ中の研究期間に関して
University of Texas, Houston/MDAnderson Cancer Centerのプログラムは1年目で3ヶ月、2年目で5ヶ月のリサーチ期間が設けられる。1年目の7月から12月までは病棟でコンサルタントとして臨床業務を行った後、1月から3月までの3カ月間、それぞれのリサーチメンターとともにプロジェクトを進めることができる。年度の初めにそれぞれのプロジェクトのリーダーからフェローに向けてリサーチの概要についてのプレゼンテーションが行われる。そこから自分が最も興味のあるプロジェクトを選び、そのプロジェクトチームとともにIRBの作成、データ収集、統計解析、論文作成を進めていく。感染症科には疫学・統計の専門家が1人所属しており、様々なアドバイスを受けることができる。なお、統計解析ソフトSPSSはフェローは無料で使用することができる。後ろ向きのデータ収集は基本的にはカルテのレビューが必要であるが、MDアンダーソンではデータアナリスト、リサーチアシスタントがデータ抽出の手伝いをしてくれる。こちらに来てまず1番に勉強になったことは、症例カンファレンスで患者さんの診断や治療について議論することはもちろん、日常の臨床的疑問点が実現可能性のあるリサーチテーマとして各専門家から次々と投じられる点である。これまでどのようなことがわかっていて、何が研究テーマとして未開拓な部分であるかカンファレンスでも度々コメントとして出てくる。「〇〇に関してはまだ誰も手をつけていないからフェローで興味を持つ人がいたら一緒にやらないか」といった感じである。日本でもアメリカでも場所を問わず言えることであるが、(当たり前のことであるが)各専門家は自分の領域のこれまでの歴史や背景をふまえ、常に新しい知見をアップデートすることにより既知・未知の部分を明確にすることが必要不可欠である。
3ヶ月でデータ収集と解析を行った後には、年に1回のアメリカ感染症学会であるIDWeekの抄録提出に向けて準備を進める。フェローによっては、メインのプロジェクト以外に複数のサイドプロジェクトや、case report/reviewを次々と進める人もいる。各個人のやる気によって次々と発信することができる点で十分なサポート体制と研究に専念する時間の確保の重要性を感じる。
日本では大学院を除いて研究期間をフェローシップの中で十分確保しているプログラムは私が知る限り多くはないと思う。日本では臨床の片手間に週末や夜間(人によっては早朝)の自分の時間を費やして研究を行っている人も少なくないと思う。1人前の臨床医になるために多くの臨床経験が必要であることは言うまでもないが、臨床研究の基礎を学ぶためのまとまった時間を確保して業績につなげることも非常に重要なことであると思う。米国におけるフェローシップ中の研究期間に関してはそれぞれのプログラムで大きく異なる。例えばテキサス大学に隣接している(道路を挟んで向かい)ベイラー医科大学の感染症フェローシップは1年目で2ヶ月、2年目で9ヶ月の研究期間が設けられる。臨床と研究の配分は各個人の好みや将来のキャリア設定をもとに志願する際に重要な要素である。
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